2025.10.21
カッシーナ LC1 椅子の張り替え事例|毛皮から本厚ヌメ革に張り替え修理
修理内容
- メーカー名
-
Cassina/カッシーナ
- メーカ紹介
-
17 世紀、イタリアに誕生したカッシーナ社は、家具業界において数少ないリーディングブランドとして世界中に知られています。完成度の高さとデザインの美しさは他の追随を許さず、数多くの製品がニューヨーク近代美術館の永久所蔵品になっています。
- モデル名
- LC1
- 種類
- パーソナルチェア
- 施工方法
- 生地の張り替え
- 修理工賃
- ¥30000〜¥60000
- お預かり期間
- 3週間
- 配送方法
- 自社便
- 依頼地域
- 東京都渋谷区
- 修理内容
-
ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンの3人によって設計された「LC1(バスキュラントチェア)」。
1928年の発表以来、モダンデザインを象徴する椅子として、今も世界中の建築家やデザイン愛好家に愛されています。今回はそのカッシーナLC1の張り替え事例をご紹介します。
張り替え前の仕様は、デザイン当初の特徴である毛付きの革(子牛の毛皮)でしたが、経年により表面の傷みや破れが見られるようになっていました。
オーナー様のご希望で、張り替えは肘掛と同様に黒い革でとの事でご依頼をいただき、金属フレームを引き立てる全体的にシックな仕上がりになりました。■ 椅子の状態
今回ご依頼をいただいたのは、東京都渋谷区のオーナー様。
お持ちのLC1は、長年使用されてきた椅子で、フレームはまだしっかりしていたものの、座面の革などは、破れが生じていました。長年使っていると、乾燥などの影響で毛の部分が抜けやすかったりしてくるのもある程度致し方ないかとは思います。
このLC1は座と背に「子牛毛皮」を使用した仕様。
一般的にはヘアカーフや腹子と呼ばれています。ヘアカーフもハラコもどちらも子牛毛皮なのですが、正確には多少異なります。🔹 素材:本厚ヌメ(黒)
今回使用したのは、牛のヌメ革。
一般的なソファや椅子に使う革は厚みが1mm前後になります。厚手の物でも2㎜弱ですが、今回の椅子に使った革は3㎜程度の厚みがあります。
また、革自体にも張りがありソフトな革ではありません。
何故この様な革が必要かというと、一般的なソファや椅子は土台にベルトやスプリングが設置され、その上にウレタンクッションなどが敷かれますが、今回の椅子はそれがありません。
その為、革だけで荷重を支える必要があり、それなりの張りや強度を保つため厚みも必要という事になります。
表面を、薄手のもう少し肌触りのソフトな革で再現できない事は無いと思いますが、より自然な仕上げを行うのであれば今回の様に厚手のヌメ革が適していると思います。
■ 張り替え内容と作業工程
今回張り替えを行ったのは、以下の2箇所です。
- 背もたれ
- 座面
肘掛け部分はまだ使用が可能な事もあり、座面と背凭れだけを張り替えました。
①古い傷んだ革の取り外しとフレームチェック
まずは、背と座の毛付き革を取り外します。
この時、フレームも確認し状態は良好でしたが、
磨き直しと軽いクリーニングを行い、小さなサビやカビを取り除き整えます。少し光沢が戻ったと思います。
② 型取り・裁断・コバ処理
既存の革やフレームの寸法などをもとに、座った時のテンションを再現するための型を取ります。
裁断後はコバ(革の断面)を磨き、塗料もつかって仕上げていきます。
この仕上げにより、エッジが締まり、全体の印象も変わってきます。③ 縫製・スプリングの取り付け・組み込み
裁断した革を縫製し仕上げていきます。
革の厚みもある為、普段とは違うミシンの設定に変え縫製していく必要があります。
縫製が終わるとフレームに革を張りながら、スプリングも取り付けていきました。
感覚と寸法を見ながら微調整し整えます。
均等に引き込み、各固定部を確認しながら金具を締め、完成です。
■ 張り替え前後の比較
張り替え前の毛付き革仕様は、クラシカルで個性的な雰囲気がありました。
一方、張り替え後の黒革仕様は、よりモダンな印象へ。
黒い本厚ヌメは光沢を抑えつつも、金属フレームと明確なコントラストが出て、
また違った雰囲気に変わりました。■ 豆知識:腹子革とヘアカーフの違い
今回のLC1に使われていた素材は「毛付き革」ですが、一般的にこのような革は「ヘアカーフ」や「ハラコ」と呼ばれることが多いですが、ハラコとヘアカーフの違いについて革好きな方に向けて
両者の違いを簡単に整理してみました。名称 特徴 主な用途 ヘアカーフ(Hair Calf) 生後6か月以内の子牛の毛付き革。毛が滑らかで、上品な光沢。 靴・鞄・小物など色々なファッション製品 腹子革(Unborn Calf / 胎児革) お腹の中にいる胎児もしくは死産した子牛の革。非常に柔らかく、ヘアカーフに比べると毛質が硬い 場合がある
靴やカバンや小物 現在では子牛の毛が付いた革を全般的に「ハラコ」と呼ばれる事も多く、その為に「ヘアカーフ」とは混同しやすい傾向があるようです。
■ 施工データまとめ
項目 内容 ブランド Cassina(カッシーナ) デザイナー Le Corbusier / Pierre Jeanneret / Charlotte Perriand モデル LC1(バスキュラントチェア) 張替え内容 毛付き革 → 本厚ヌメ(黒) 使用革 牛革 張替え箇所 背もたれ・座面 施工地 東京都渋谷区 所要期間 約3週間 ポイント 肘掛オリジナル革との統一感 如何でしたでしょうか、今回はLC1チェアの張り替え事例をご紹介させて頂きました。
同じ革でもこの様に素材感が変わると、張り替え後の椅子の雰囲気もガラッと変わりますね。
張り替えの目的は椅子やソファの生地が劣化して痛んでしまった、クッションがヘタってしまったなどの場合は勿論の事、引っ越しやリフォームやリノベーション、または店舗の改装などに伴っての空間のイメージチェンジなどの手助けにもなります。
沢山の生地素材の中から、ご自身だけのオリジナルの椅子やソファにイメージチェンジをしてみては如何でしょうか。
