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初めに
日々の暮らしの中で必需品といってもいい椅子やソファ。長年使い続けたお気に入りの一脚がくたびれてしまったら、処分するのではなく「張り替え」で生まれ変わらせてみませんか?
張り替えは単に修復するだけでなく、布地やレザーを変えることでまったく新しい魅力を引き出すことができます。
今回ご紹介するのは、特に個性的なデザインで張り替えた椅子やソファーに焦点をあてた張り替え事例のご紹介です。
単色の布地や定番カラーだけではない、柄物・大胆な色使い・アートのような仕上がりでインテリアに存在感を放つ椅子やソファが登場します。
この記事では、5つの個性的な張り替え事例を1つずつご紹介していきます。
ブランド家具からノーブランドの椅子、海外で購入された一点ものまで、さまざまな椅子やソファが、生地の選び方や施工の工夫によってどのように生まれ変わったかをご覧いただけます。
事例1:重厚な黒革からアートのようなモノトーンフェイクレザーへ大胆チェンジ
張り替え前(Before)
張り替え後(After)
(ブランドとモデルについて)
今回の張り替え事例のベースとなったのは、ノルウェーの老舗家具ブランド「エコーネス(EKORNES)」が誇るリクライニングチェア「ストレスレス ロイヤル」。抜群の座り心地と、機能性・耐久性に優れた名作として世界中で長年にわたり愛されてきたモデルです。
元の張り替え前の状態は、黒い本革のカバーでの仕上げ。
重厚感を兼ね備えたクラシカルな装いで、年数が経っても色々なスタイルの部屋にな馴染むようなデザインだと思います。
(張り替えの背景とお客様のご要望)
お客様は長年この椅子を愛用されており、「とにかく座り心地が良く、張り替えをしてまた新鮮な状態で使いたい」とのことでした。
ただ、革の劣化や座面のひび割れ、色褪せが目立ち始めており、「見た目を一新しつつも、より自分らしさを表現したい」との思いから張り替えをご依頼いただきました。
選んで頂いた生地はは、アニマル柄の個性的なモノトーンのフェイクレザーでした。
単一色が多い、エコーネスのストレスレスチェアなのでもしかすると世界に一つしかないストレスレスチェアの柄になったのでは無いでしょうか。
とてもユニークで素敵になりました。
(生地の選定と施工のこだわり)
今回の張り替えで使用したのは、サンゲツの椅子張り専用フェイクレザー「UP5455」。この生地は、メイド イン スペインのインポートレザーで、まるでアートのように大胆なアニマル風柄とモノトーンの色使いが融合したデザイン性の高いフェイクレザーです。
特に注目すべきはその立体感のあるプリントで単なる柄ではなく、まるでリアルな毛並みがそこにあるかのような錯覚を与えるようなプリントが施されており、見る角度や距離によって印象が変化する独特の存在感を持っています。
また、UP5455はデザイン性だけでなく、椅子張り用途に求められるスペックも十分に備えています。耐摩耗性・次亜塩素酸性など、日常使いでも安心できる性能を持ち、汚れにも強いフェイクレザー素材として非常に扱いやすい点も魅力です。
施工では、この個性的な柄を最大限に活かすため、柄合わせもしっかり行い、特に背もたれの中央部分には柄の中心を持ってくるように配置し、座面・肘掛け・オットマンにかけて全体のバランスが整うよう、張り地の取り方を調整しました。
(張り替え後の印象とお客様の反応)
張り替え後、椅子はまさにまるで別物のように生まれ変わりました。
印象が全然違いますね。
重厚でクラシックだった雰囲気から一転して、アートのようなスタイリッシュな存在感を持つパーソナルチェアに。
これくらい椅子の主張がしっかりしていると、椅子が部屋の主役になった印象です。
お客様からは「とても丁寧にして頂いて、お願いして良かったです」との感想をいただきました。張替えに合わせて中身のクッションの修正もしたので、座り心地も更に快適になったのでは無いでしょうか。
ただ派手なだけではなく、落ち着いた色味で大人の遊び心が感じられる、まさに“自分らしさ”を表現できた張り替えになったのではないかと思います。
自分だけのデザインの椅子やソファーと思うと、より愛着が湧いてくるかと思います。
生地の種類が沢山あるので、是非張替えをご検討の際にはトライしてみてみては如何でしょうか。
事例2.ノーマルなグレーのファブリックから春色の大柄な花柄へ張り替え
張り替え前(Befor)
張り替え後(After)
(ブランドと椅子について)
今回ご紹介するのは、ノーブランドのコンパクトチェア。ナチュラルな木目の背板とマットブラックの脚部を組み合わせたシンプルなデザインで、軽やかさと安定感のあるバランスが魅力です。
この椅子は量販家具などで見かけることもある一般的なデザインですが、座面が広く低めに設計されているため、くつろぎの時間にぴったり。北欧風の空間やミッドセンチュリーモダンなインテリア、さらにはカフェや待合スペースなど、さまざまなシーンに調和する汎用性の高いアイテムです。
しかし、シンプルであるがゆえに、どこか「没個性的」にもなりやすいという側面もあります。今回の張り替えでは、そのベースデザインを活かしつつ、まったく違う印象を生み出す生地で張り替えをさせて頂きました。
(張り替えの背景とお客様のご要望)
今回ご依頼いただいたお客様は、持ち込みの生地での張り替えは出来るか?
というお問合せいただき、もちろんそれは可能なので、その後に椅子の引き取りと同時に生地も受け取り張替えをさせて頂きました。
もともとのグレー無地のファブリックは、どんな空間にも溶け込むという意味で“万能”でしたが、それゆえに存在感はやや控えめ。
ですので、今回お持ち込みいただいた生地は大きめの桜色の花柄で、とても可愛らしい生地をお預かりさせて頂きました。
どこかレトロでポップ、そして愛らしい雰囲気を持ったその生地は、見るだけで明るい気持ちにさせてくれるものでした。
(生地と施工のこだわり)
使用したのは、お客様持ち込みのプリントファブリック。ピンクと白、濃いブラウンの花柄が組み合わさった、非常に印象的なテキスタイルです。
このような柄生地は、そのまま貼ってしまうとごちゃついた印象になってしまうため、仕上がりのバランスを考えた「柄取り」が重要になります。
裁断段階では、特に正面中央に1つの大きな花がしっかりと配置されるよう、生地のどの部分を使うか検討し。左右対称になるように柄を合わせながら、縫製ラインとデザインが干渉しないよう調整を加えました。
また、曲面の多い座面は、張り込み時に柄がゆがみやすく、張り込みのテンションの調整が必要です。あとはシンプルな椅子ほど目立ちやすいシワを出さない様、ウレタンクッションの修正も加えて完成です。
(張り替え後の印象)
完成したチェアは、まさに「一脚で空間が華やぐ」存在へと生まれ変わりました。無地で控えめだった印象は全く変わり、明るく華やかな雰囲気に見事に変わりました。
ほんとに全然印象が違いますね!
ピンク系の色調ながらも、ブラウンのラインが全体を引き締めてくれるため、甘くなりすぎず、モダンな空間にもマッチする絶妙な配色バランス。背板の木目や脚部の黒とのコントラストも活き、既存のインテリアとも自然に調和します。
ブラウンとピンクの相性はとても良いですからね。
お客様からは「かわいく仕上がって大満足です」とのお言葉をいただきました。なにより、お客様がご自身で選んだお気に入りの生地が、職人の手によって新たな形に仕上がったことで、家具に対する愛着もさらに深まったご様子でした。
「この椅子を見て、気持ちが明るくなる」「つい誰かに見せたくなる」というような声もあり、張り替えが単なる修復や交換ではなく、暮らしの気分そのものを高める効果を持つことを、改めて実感できた事例となりました。
事例3:3人掛けソファ|ベージュから大胆なバイカラーレザーへ。重厚感と遊び心を両立した部分張り替え
張り替え前(Before)
張り替え後(After)
(ブランドとソファについて)
このソファは、3人掛けのゆったりとしたサイズ感としっかりとしたクッション性を持ち、リビングに置けばその存在感は十分で
ベースはベージュの本革スムースで張られており、どんな部屋にもなじみやすい一方で、長年の使用により摩耗や汚れが目立ち始めていました。
特に中央部分の擦れやひび割れが進んでおり、全体の印象を大きく損なっていたため、修復と同時に「思い切って印象を変えたい」とご相談いただきました。
(張り替えの背景とお客様のご要望)
お客様のご希望は、「修理だけでなく、遊び心あるカラーで仕上げたい」というものでした。全面を同じ色で張り替えるのではなく、パーツごとに色を変える“バイカラー”のデザインにすることで、ソファに動きや個性を与える発想を頂きました。
いくつかのサンプルをご覧いただいて、最終的にお客様が選ばれたのが深みのあるワインレッドと明るめのキャメルブラウンの2色の表面がスムースな本革。
「部分張り替え」という選択により、既存のフレームやデザイン性を活かしながら、まるで新しいソファのような見た目に生まれ変わらせることができました。
(使用した生地と施工のこだわり)
今回使用したのは、なめらかな質感と上品な光沢を持つ2色の表面がスムースな本革です。
本革には表面に細かな凹凸があって、その凹凸が大きいのがシュリンクレザーと言われる革です。
そして表面の手触りや見た目がツルっとしていて、凹凸の無い、もしくは少ないものがスムースレザーと言います。
それぞれに見た目などの違いがあり、使う人のデザインの好みなどに合わせて選ぶことが出来ます。
今回のワインレッドの革は深みと高級感を、キャメルブラウンの革は温かみと柔らかさを演出し、コントラストの妙が際立つ組み合わせでした。
張り替えにあたっては、部位ごとに色を切り替えるタイミングやバランスを設計。
左右の肘掛けと背もたれ、座面、さらにソファ下部に至るまで、それぞれの革の張り込み位置と切り替えラインが自然になるようにパターンを調整しました。
仕上がった時は、張り替えをしたこちら側も経験のない配色だったのですが、個性的で面白いパターンにはとても好感を持てました。
(張り替え後の印象とお客様の反応)
ベージュ一色だった以前のソファは、落ち着いた印象である反面、やや無難で古さが目立つ状態でした。
しかし今回の張り替えにより、視覚的なメリハリと立体感が加わり、まるでハイエンドなパーソナルソファのような存在感を放つようになりました。
中央のキャメル、両サイドのワインレッド、そしてアーム部分での色切り替えが、デザインとしても個性的で、ソファ全体に新しい印象が生まれました。新しく張り替えたことで座面のクッションも修正され、座り心地も損なわれることなく、むしろよりしっかりした座面になったと思います。
お客様からご満足の声と新しい感性を頂いたことで、今後の新たな発想にもつながる気がしました。
事例4:海外購入ソファ|ビンテージ感とボヘミアンを融合。見て楽しい2脚セットの個性派張り替え
張り替え前(Befor)
張り替え後(After)
(ブランドと椅子について)
この2脚のアームチェアは、お客様が海外で購入されたソファで、日本国内ではあまり見かけないユニークなシルエットと生地のデザイン、足元のフリンジが印象的な個性派家具です。
張り替え前の状態では、座面の破れや背もたれのクッションの露出などがあり、使用に支障が出るほどの劣化が見られましたが、それでもこのソファが持つ世界観には目を引かれました。むしろ、その個性をさらに引き出す「生地デザインの再構成」が、今回の張り替えのテーマとなりました。
(張り替えの背景とお客様のご要望)
お客様からは持ち込みの生地で、このソファの生地を張り替えたい。
という事で声を掛けて頂きました。
新しい生地の配置などもご指示頂き、希望通りの仕上げになりましたが
そのお客様のセンスの良さにも脱帽でした。
それぞれ異なる個性的なパターンを組み合わせる構成や、色の組み合わせ、配置バランスについても、すべてお客様の指示のもと進行しています。ロンドンの街並みや花柄、民族模様、童話のワンシーンのようなイラストなど、まるで1脚ずつにストーリーがあるような張り替えになっています。
(生地構成と施工のこだわり)
今回の施工では、「コラージュ」のような張り分けが最大の特徴。座面・背もたれ・アーム・サイド・スカート部分に至るまで、異なる生地を細かく組み合わせ、複雑でありながら一体感のある仕上がりです。
左右2脚で異なる配色や柄を使いながらも、全体としては調和が取れるよう、お客様のセンスに合わせて慎重に配置。特に柄合わせやカット位置の判断には、気を使い出来る限りオーナーの意思に添える様作業を進めさせて頂きました。
また、足元のフリンジはオリジナルのものを再利用。これにより、張り替えによって失われがちなビンテージ感を残しつつ、新たな生地の鮮やかさとの対比が、アート性を際立たせています。
このソファの最大の魅力は、何といっても「お客様のセンスがそのまま形になっている」という点。私たちはその構成を形にする技術的な裏付けを行いましたが、作品としては、まさにお客様の感性によって導かれたものだと思います。
(張り替え後の印象)
仕上がったソファは、まるでギャラリーに置かれたインスタレーションのような存在感です。色彩と柄が醸し出すビジュアルは、見ていてとても楽しいし、ハッピーな気分になりますね。
この椅子が空間にある事で、明るさと躍動感が感じられます。
単なる家具というよりも、持ち主の趣味や世界観を反映する“アートピース”のような存在に仕上がったこのソファ。暮らしの中に遊び心と多様性を加えたいという方にとって、大きなインスピレーションになるのでは無いでしょうか。
事例5:輸入ソファ|革と布を活かす異素材ミックス。暮らしに馴染む新しいクラシック
張り替え前(Before)
張り替え後(After)
(ブランドとソファについて)
このソファはブランド不明ながら、イギリスから輸入された本革仕様のゆったりとした3人掛けのモデル。しっかりとした木製フレームと、奥行きのある設計で、長時間座っても疲れにくい構造となっています。
大柄な人には特に重宝しそうなソファーですね。
元の状態では、座面とアーム部分を中心に革の色落ちや擦れが目立ち、使用には問題がなくとも、見た目の印象が古びてしまっている状況でした。革特有の質感は魅力である一方、長年の使用による変色や表面の劣化は避けられません。
(張り替えの背景とお客様のご要望)
お客様は「全張り替えではなく、部分的なリフレッシュを希望」とのことで、座面クッションの布地張り替えと、アーム部分の革の張り替えをご依頼いただきました。
さらに、もともと入っていた座面のフェザークッションは「柔らかすぎて身体が沈みすぎる」との意見もあり、今回は座面内部をフェザーよりは少し固めでしっかりとしている、ウレタンクッションに交換する施工も同時に実施しました。
肘掛部分は、もともと座面に使われていた本革は、張り替え後には使わなくなってしまうので、座面張替えと同時に革の使える部分をカットし余りを活用して張替えました。
統一感とコストバランスの両立を実現。素材を無駄なく使う工夫と、美観の向上を両立させた施工となりました。
(生地選定と施工のこだわり)
座面には、輸入されたファブリックを使用。グレイッシュな濃色の布地は落ち着きがありながらも現代的な雰囲気を演出し、本革の温かみあるキャメル色とのコントラストが上品です。
異素材を使った張り替えでは、革と布の境目の納まりや見た目の質感の差異が気にならないよう、接合部のラインやステッチ処理にも差異が出ない様に作業しました。また、座面の布地は取り外し可能なカバー仕様として仕上げているため、メンテナンス性にも優れています。
ウレタンのクッションは、硬質なものと軟質な物の二層構造を採用し、程よい弾力で、しっかりと身体を支える快適な座り心地を実現しています。
(張り替え後の印象)
張り替え後のソファは、ナチュラルな革の魅力は残しつつ、劣化してしまっていた座面は自然な風合いの布で全体の印象が異素材ながらも大きく外れてないものになったと思います。
座面の濃色ファブリックが空間全体を引き締め、革とのコンビネーションが上品なアクセントに。落ち着いたトーンながらも古臭くならず、洗練された印象を与えています。
見た目の変化だけでなく、ウレタンクッションによる座り心地の向上により、実用面でも満足度の高い仕上がりになりました。派手さはありませんが、日常の中に自然な印象に仕上がったのでは無いでしょうか。
おわりに
今回ご紹介した5つの張り替え事例からも分かるように、家具の張り替えは「古くなったものを修復する」というだけでなく、「空間に新しい雰囲気を加える」力があると思います。
素材や色の選び方次第で、クラシックな印象からモダン、ポップ、アートピースのような存在にまで変化させることができます。
特に今回のように個性的なデザインを意識した張り替えでは、お客様一人ひとりの感性が大きく反映されており、それに技術力で応えることで、世界に一つだけの家具が完成します。
既製品では満たされない“こだわり”を形にできるのが、張り替えの最大の魅力。あなたの暮らしの中にある、大切な椅子やソファにも新しい表情を与えてみませんか?張り替えを通じて、自分らしい空間づくりをするお手伝いをさせていただけると嬉しいです。